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駈込み女と駆出し男 その17 堀切屋とお吟 

堤真一さんが
江戸の光と影を背負った
日本橋唐物問屋堀切屋三郎衛門を演じる

大泉洋さん主演の
「駈込み女と駆出し男」


公開から1週間。
みよごんは試写会含め、3回観ました
映画に行く時間を捻出したくって、仕事が捗る捗る!家事が片付く片付く!
(家事に関してはどちらかというと、いえ完全に手抜きですが・・・)
人間のヤル気って凄いです。今回身を持って実感しました。



さて、
この映画で堤さんが見せてくれたものは

儚い「徒(あだ)夢

      それとも・・・







洒落た遊び人たちが集まる高級座敷鮓「いさご」

人気戯作者らをもてなす堀切屋のもとに、
母屋の仕事を終えたお吟がやってくる。

お吟は堀切屋の少し後ろに座ると、
その横顔をうっとりと見詰めて、
強味と渋みの利いた容貌を、
男の耳元で、そっと愛でる。

「いい顔かい?」と応える堀切屋。
その少し哂った口元には、男の自信が漲っていた。

ここが華やかで賑やかな座敷であっても、
ふたりには、ふたりだけの濃密な時間が流れていた。


ふと、堀切屋はお吟の髪に櫛がないことに気づく。

その櫛は、
男が女と契りを結んだ時に贈ったもの。
しかし女は
すでに母屋の仏壇に置いてきていたのだ。

堀切屋をはぐらかし、
お吟は席を立つ。

惚れた男を振り返ることもなく・・・


これが堀切屋とお吟、今生の別れ。




そして、まだ何も知らない堀切屋が口ずさむのは

~一夜流れの徒夢も、
   別れは惜しき明けの鐘。
    炎の中に暮らそうが、
あなたを退いて片時も、
      浮世の日影が見られるか~

「伊勢音頭恋寝刃」
訳あって愛しい男に別れを告げなければいけない
美しい遊女、お紺の一節だった。





数日後、
お吟の行方を手を尽くして探した堀切屋のもとに
一通の書状が届く。

みるみるうちに顔色が変わる堀切屋。
飛脚の前では繕って「一里百文の相場だね」と
穏やかな口調で二貫六百の代金を支払ったものの、
腸は煮えくり返るばかり。

怪しい仲間が待つ薄暗い奥の部屋に入ると、
「東慶寺に駈込みやがった!」と書状を叩きつける。
自分にぞっこんだったはずのお吟。
思いもよらない裏切りに、可愛さ余って憎さ百倍。
「金目当ての、とんでもない性悪のいけず」
と罵る堀切屋であった。





金の交渉のために必ず何らかの動きがある
と信じる堀切屋は一計を案ずる。

実は堀切屋、
日本橋の豪商の主人とは、世を騙る偽りの姿。
その正体は、盗賊の首領であった。

お吟の交渉役と睨んだ東慶寺の御用宿の見習い、
中村信次郎の拉致を実行した。




堀切屋は焦っていた。

折しも、水野忠邦の圧政のもと、
本業も裏稼業も苦境に立たされていた。
どちらの仕事にも、
いつ御上の手が入ってもおかしくない状況だった。

自分の手元に財産があるうちに、お吟に金を渡し、
再び会えることを願っていた。




一刻も早く交渉の糸口を掴むために、
堀切屋は信次郎を厳しく攻め立てた。
しかし、
信次郎の口からは堀切屋が望む言葉は出てこない。
堀切屋は手を緩めることなく、いっそう信次郎を追いこむ。
首に縄をかけて吊り上げ、
浮いた足もとに盗品の仏像の頭を滑り込ませる。
それでも何も言わない信次郎に
「なめてやがる」と吐き捨てると、
先ほどの仏像の頭を蹴り飛ばす。
縄を緩められて床に落ちた信次郎に水をかける・・・

「あいつの心が欲しいんだ」
そう声を絞り出す堀切屋は、
駄々をこねる子ども同然であった。
神仏の罰を恐れることもなく、
水野の治世は続かない、と世の中を見通す知恵もある男が、
たったひとりの女の心を求めて我を失っている。

「これが盗賊をまとめ上げていた赤星伝兵衛か」
と手下にまで嗜められるありさま。



すると

「お吟さんは、労咳です」
やっと信次郎が重い口を開いた。

ところが、
堀切屋は聴く耳さえ持たない。

信次郎は続ける。
「眉、目、鼻、口、顎、
 どこにも強味と渋みがあって・・・」



堀切屋の脳裏にあの日のお吟の姿と声がよみがえる。

まさしく、
あの日お吟が堀切屋の耳元でささやいた言葉だった。


信次郎の言葉は続く。
「お吟さんは粋だ」

すかさず、
「粋っていうのは、芸者や女郎を褒めちぎる言葉だ!」
お吟の事となるとむきになる堀切屋。


信次郎は言葉を選ぶ。
「徒だ。お吟さんは『徒』にこだわっている」
「惚れた男に自分の死に顔を見せたくないんだ」
「お吟さんが惚れた男はただひとり、
 堀切屋さんだけだ」



全てを悟った堀切屋の眼に、涙が溢れる。


「一夜流れの徒夢も、
別れは惜しき明けの鐘、か・・・」

「良い夢見させてもらったよ」




一番欲しい物を取り戻した堀切屋に、もう畏れるものはなかった。
信次郎に後を託し、
仲間と共に、アジトに乗り込んでくる奉行所の連中を迎え撃ちに出た。

多勢に無勢。
勝ち目のない戦いだった。







その次の夏。

東慶寺の御用宿、柏屋には
最期の時を待つお吟が体を横たえていた。

意識が朦朧とし始めたお吟の枕元で、
「八犬伝」を読む信次郎。

その声には、いつしか声明が重なっていた。

天に向かって、両の手を差し伸べるお吟。

そして・・・



宿の暖簾の外には網代傘で顔を隠した托鉢僧。



女の耳には、
きっとたしかに、
惚れた男の声が届いていたはず。









やがて歳月が経ち、
三途の川のほとりで、
引き眉に鉄漿をした徒なお吟の前に、
強味と渋みが利いた堀切屋が現れる日がやって来る。

その日までのしばしの別れ。



儚い徒夢ではなく
決して褪めることのない恋。


そう思いたい・・・








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10 Comments

みよごん  

luna さま

再度のコメント、ありがとうございます。

lunaさまのブログも拝読して、
愛情ってなんだろう?
情ってなんだろう?
と考えておりました。

おぎんの行動が、
堀切屋の人生をリセットするきっかけになった。
人の道として良い方向に向かったことに、
きっと彼女も安心しているんでしょうね。

いろいろな想いが残る映画でした…



2015/06/04 (Thu) 09:58 | EDIT | REPLY |   

luna  

狂歌にありません (^^;)

判じもの として
流行りの川柳や狂歌と表現しただけで
具体的にうたったものは知りません

彼女は自身の死後も
彼を活かす道を
己の生き様も全うした と想いが至りました


現代の新聞ニュースでも
伴侶の死後、思わぬ人生を送る方がいらっしゃるじゃないですか
幸運の場合もありますが
不幸?悪運が降って涌いてくることが往々にある

好きで一緒にいるわけですから
先に逝く者にとっては
やはり心は残りますよ 情ですか?深いですか?v-516

2015/05/30 (Sat) 20:41 | EDIT | REPLY |   

みよごん  

luna さま

なるほど!
全てが良い方向に動いて行ったのですね。

>己の生き様である「粋」は、「意気」でもあり「活き」でもあった
当時流行である狂歌にも通じます 判じものですなぁ

狂歌にあるんですか!おもしろいです。

>悪に手を染めたまま、ひとり男を残すのは忍びない と
私なら思います

lunaさまも、情が深くていらっしゃるんですね。
わかります(泣)




堀切屋とお吟関係って、
すごく現代的だと思いました。

堀切屋はどういう考えかわかりませんが、
お吟の方は自立していて、
おそらく独りで生きていける女性でしょう。
恋はしていても依存はしない。
lunaさまがおっしゃるように、
人の価値観で左右されずに、自分の考えで生きている。

見習いたい部分がたくさんある女性で、憧れます。

2015/05/30 (Sat) 14:37 | EDIT | REPLY |   

luna  

悪縁を絶つ

三郎衛門は、あの捕り物から一人抜け出せた

お吟が傍にいれば、ふたりは逃げ果せたかどうか?

お吟との縁がきれたと思わせて、他者との悪縁を絶つことが出来た


お吟が駆け込んだから、三郎衛門も生まれ変われる

三郎衛門とお吟の縁は、決して切れたわけではありません

夫婦ではなく愛人関係を続けたように

ふたりさえ解かりあえれば世間の常識など関係はない

心の繋がりと、

お吟が好きな
「眉、目、鼻、口、顎、どこにも強味と渋みがあって・・・」を身に残し、

後はゼロから駆け出せる男(再スタートが切れる)


このふたりも「駆込み女と駆出し男」だったんですね


お吟は命の使い方を知っていたわけです

己の生き様である「粋」は、「意気」でもあり「活き」でもあった

当時流行である狂歌にも通じます 判じものですなぁ


お吟は、そこまで意図していたかは、今となっては判りませんが、

悪に手を染めたまま、ひとり男を残すのは忍びない と

私なら思います

自身が先に逝くなら

相方の其の後は無事平穏に生きていって欲しいと願います

決して、今までの人生からは想像もつかない悪運に見舞われることだけは避けて欲しいですもの


時間が経てば、いろいろなものがみえてきます。



2015/05/30 (Sat) 11:49 | EDIT | REPLY |   

みよごん  

KEI さま

>そして、1人、生き残ったことに苦る…
そんな堤さん…それは、もう、たまらないでしょうね。
はい、私もどSですから(笑)
だって、絵になるんだもの。

そうですよね。
KEIさまも、Sで良かった(笑)

2015/05/27 (Wed) 23:44 | EDIT | REPLY |   

KEI  

それは、私も…

みよごんさん、こんにちは。

ツンデレ!
正しく、それですね。
お吟さん、これまでも、堀切屋を甘味に翻弄してきたのが伺えます。ふふふ

あの捕物、最後は川(?)になだれ込んでいましたよね。
意図せず逃げきれたのかもしれません。
そして、1人、生き残ったことに苦悩する…
そんな堤さん…それは、もう、たまらないでしょうね。
はい、私もどSですから(笑)
だって、絵になるんだもの。

あの後ろ姿には、「無の境地」って言うのかな、そんなのを感じるし。
でも、そこに至る過程も見せて欲しいですよね。

2015/05/27 (Wed) 11:33 | EDIT | REPLY |   

みよごん  

KEIさま、
2回目鑑賞のレポートをありがとうございますm(__)m

お吟はいわゆる、ツンデレ、ですよね。
クールに振舞ってはいるものの、
本当は情が深~~い・・・(笑)

捕り物の後のことは、謎ですね。
ただでさえ、暗いし短くて確認しずらいのに。
確かに、
観る人の願望によっても解釈が変わってきますね!

私は世を捨て仏門に入ったと理解した派だったので、
2回目鑑賞時には
闘争に参加しているのか、捕まっていないのか
一生懸命確認しました。
お吟との夢も終わり、仲間も失って1人生き延びた堀切屋。
苦悩が似合う堤さんに、そのあたりも演じてほしかったです。
ドSですみません(>_<)
監督としては、そのすべてを
「あの後ろ姿」に語らせたのかもしれませんが・・・

2015/05/26 (Tue) 09:44 | EDIT | REPLY |   

KEI  

べったべった、だんだん

みよごんさん、こんばんは。

今日、2回目の鑑賞、行って来ました。
お吟も、こんなに登場場面少なかった?!と思える程、堀切屋と同様に彼女に惚れ込んでしまったのが分かりました。
お吟のじょごへの愛情…本当に情の深い女なのですよね。
堀切屋が、心底、惚れずには、いられない訳です。

あの大捕物の場面、
堀切屋は捕まったのか逃げのびたのか、謎ですよね。
監督の原田さんは、クライマーズハイでも悠木がキタカンに残ったのか辞めたのか…謎を残していました。
捕まったら死罪は免れないでしょうし、1人逃げのびるのも堀切屋らしくないかもと…それは私の願望かもしれないですけど。

2015/05/25 (Mon) 19:01 | EDIT | REPLY |   

みよごん  

KEI さま

コメント、ありがとうございます。

>堀切屋が迎えに来たのかも、とも思えました。
なるほど!それもありですね。
そうだとすれば、
これからはふたり一緒で、めでたしめでたし❤

あの殺陣のシーン、
堀切屋がどうなったか見えなかったので、
気になるところです。

とにもかくにも、
あの去っていくシーンは観る者の心に残ります(涙)
>最後、風のように去って行ったし…
素敵な表現ですねe-420
KEIさまのコメントを参考に、
あとで本文を加筆させていただくかもしれませんm(__)m

>私も、2人は永遠だと信じたいです。
そうですよね。
KEIさまが共感してくださって、嬉しいですe-259

2015/05/24 (Sun) 13:47 | EDIT | REPLY |   

KEI  

永遠に

みよごんさん、こんにちは。

思わず、泣いちゃいました。
お吟と堀切屋の物語を粋にまとめてくださって、ありがとうございます。

あの世での再会…
何となく思っていたのですが、
お吟が旅立つ時、堀切屋が迎えに来たのかも、とも思えました。
手を伸ばしたお吟には堀切屋が見えていたのかも…と。

堀切屋が追い詰められる場面で、死んでしまった?と最初思ったぐらいなんです。
最後、風のように去って行ったし…
原田監督のディレクターズカット版の予告編でのラストに、その場面が使われているのも印象的で…
私の勝手な妄想を長々とすみません。

とにかく、私も、2人は永遠だと信じたいです。

2015/05/24 (Sun) 10:35 | EDIT | REPLY |   

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